NOVEL

私の憂鬱。

私の憂鬱。第二十九話

人通りもかなり多い、週末の飲み屋街。 僕は特にどこに行くでもなく賑やかな街をぶらついていた。 漫画喫茶にでも入って夜明かしをするか。 それともまたおねーさんでもひっかけようかな。 あれこれと考えてひとつのお店の前でなんとなく立ち止まった。 ...
私の憂鬱。

私の憂鬱。第三十話

「深咲さーん、冴島さん14時に来るって」 「はいはい」   肩をこきこきと鳴らしながら、私は返事をする。 ちょっと休憩しようかしら。   ふう、と息を吐いて眼鏡を外した。   「深咲さん、ホットチョコレートあるけど飲む?」 「え?珍しいわね...
天球儀

天球儀 ep.1 三月「牡羊座の始動」

2010年2月 『私立楷明大学附属高等学校 特待入学生試験 面接会場』  そう書かれた扉の前でセーラー服姿の少女は高鳴る鼓動を抑えようと必死だった。 (落ち着け、落ち着け、学科試験はよかったはずだ。人の字を呑むなんて迷信よ!)  考えれば考...
天球儀

天球儀 ep.2 四月「牡牛座の出来心」

電車の長いトンネルをくぐる時いつも不安になる。  雨は降っていないだろうか。  ちゃんと学校に着いているだろうか。  あの人は…  茶色のしなやかな髪をひるがえして、強かに笑うのだ。  無愛想な顔をしながら、それでも「おはよう」と言うと必ず...
天球儀

天球儀 ep.3 五月「双子座の退行」

「まっゆり〜、おはよ〜」 「おはよ……」毎朝聞きなれたその声にまゆりは返事をし、その姿を確認し、ギョッと目を丸くした「ナル!その制服!」 「だってナルにはこっちの方が似合うもん。かわい〜でしょ〜?」  ナルは本来ふくらはぎも隠す長さの制服の...
天球儀

天球儀 ep.4 六月「蟹座の幸福」

中間テストが終わり、衣替えも終わり、梅雨がその兆候を見せだしていた。  十二宮は楷明大とその附属高校で初夏に行われる文化祭の準備で慌ただしかった。蛇遣座の高坂南も十二宮室に加わって書類に追われている。  しかし、観月祐歌はインターハイ予選に...
天球儀

天球儀 ep.5 七月「獅子座の未来」

「そういえば、進路希望出しました?」  十二宮室に集まった面々は終業式までに済ませなければならないそれぞれの仕事に精を出していた。 「どうせ皆、楷明大でしょ」  永戸滋はあっさりと言う。 「永戸さんはモデル一本ではやらないんだ」 「現役女子...
天球儀

天球儀 ep.6 八月「乙女座の恋煩い」

(な〜んで夏休みまで毎日学校に行かなきゃならないのよ、メンドくせ。やっぱり十二宮なんて入らなきゃよかった。十二宮なんて入らなくても私の成績なら楷明大くらい余裕で…)  心の中でぼやきながら矢井田桂子は炎天下の下を歩いていた。いつもは車通学な...
天球儀

天球儀 ep.7 九月「天秤座の失望」

「石灰が足りない?体育祭は来週なのよ!業者に無理言ってもらってきて、多少予算オーバーしてもいいから!」 「二年六組と八組の学級発表会のテーマが提出されてません」 「すぐに催促に行ってきて!ただし、体育祭優先で!観月さんは?体育祭の進行表頼ん...
天球儀

天球儀 ep.8 十月「蠍座の義務」

「バカモンが!」  父親の怒声が広い事務所中に広がった。机に並べられていた書類が辰弥の顔面に投げつけられる。事務所の社員の視線が一身に集まる。母親が慌てて止めに入った。 「あなた!辰弥と取石さんも、とりあえず応接室に!」  辰弥の母親は事務...