あとりえ透明

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あとりえ透明「コピック」

真新しいアパートの一室。家具も統一され、整頓されている。それは私が整頓好きなためではなく、単に引っ越してきたばかりだからだ。私はどちらかと言うとすぐに散らかしてしまう方で、よく母親に叱られた。しかしもう口うるさく叱る母親もいない。  念願の...
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あとりえ透明「スクリーントーン」

待ち合わせの時刻の五分前に着いた。駅前の改札広場で周りを見渡す。目当ての人は……と言っても姉に携帯写真を見せてもらっただけなのだが……見当たらない。ゴールデンウィーク半ばでさほど都会でもない駅も混雑している。両手に持った大きな紙袋が重い。た...
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あとりえ透明「アクリルガッシュ」

彼女は、絵が美しい、という名前の通りの人だった。   「えー、あんた言い寄られてる人いるって言ったじゃん」 「それがさー、風邪ひいてる時に『お見舞いに行っていい?』ってマジ引くー」 「うわー、それはないわー」  それは十二月のひどく寒い日。...
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あとりえ透明「木炭」

こんな中途半端な時期に転勤とは自分もついていない。転勤先も自宅からさほど離れていないので、引っ越さなくてよかったことだけは幸いだったが。  六月と言うのはこの業界では多忙な月だ。ジューンブライドとやらで結婚式が多く行われ、それに触発された主...
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あとりえ透明「綴り切り」

「目が見えにくく……ですか」  私の言葉にその女性は首を傾げた。 「ここまでお一人で来られたと言うことは、全く見えないと言うことではないのですよね?」 「緑内障でね。六十もすぎれば色々ガタがくるよ。まだごく初期症状なのだが、さすがにナイフは...
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あとりえ透明「レース編み」

結婚相談所からの紹介を受け、今日は初めて女性と会うことになった。ここまでこじつけるのに随分と時間がかかった。  俺は自分で言うのもなんだが、収入も容貌も悪いとは思わない。堅い職にも就いている。歳は四十と若くはないが、それでもただ一つの項目が...
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あとりえ透明「ニカワ」

「あーもうせいせいしたわ」 「ばーちゃん、不謹慎」  夫の葬儀から帰宅した私は居間に喪服のまま寝ころんだ。孫の翔が呆れた口調で叱る。 「そうね、着替えないと。そうだ。服を買いに行きたいわ。あと家具も新しくしたいし、それからカーテンも私好みの...
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あとりえ透明「パステル」

診察室で私と同じ年の頃の黒髪の女性は体を固くしていた。 「お待たせしました。外科の担当をさせていただきました。ご家族の方ですか?」 「いえ、私は仕事仲間で……って福原部長!?」  スツールに座った女性に見覚えがあった。私が部長をしていた高校...
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あとりえ透明「マスキングテープ」

「えー、何それー?」 「本当だって。金崎先輩に教えてもらったの。時々行くお店」 「面白そう!」 「なんかね、デコとかも教えてくれるってこの前店長さんが言ってたよ」 「ホント!?私携帯デコりたい!」 「皆で行こうよ!」  漫研の部室で賑やかな...
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あとりえ透明「レジン」

「成瀬拓馬……さんですか?」 「はい、フリーのジャーナリストをしています。こちらの店を取材したくて」  ショートカットの女性に俺は名刺を差し出した。 「取材……ですか?」 「姪からここのことを聞いたんです。自分は絵のプロモーターをしていたこ...