かむがたりうた

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かむがたりうた 第零章「ヒミツ」

梭の手をやめ歌ふをきけば ——もつれた糸なら   ほどけもせうが   きれた糸ゆゑ   せんもなや。         竹久夢二「どんたく」 「ごめんな」  その言葉に、少女はぐったりとうなだれた。  人通りのない放課後の渡り廊下。そこにいた...
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かむがたりうた 第壱章「ヒト」

倭は 国の真秀ろば    たたなづく 青垣 山籠れる 倭し麗し         「古事記」中巻・景行記 ……………………………………燃える 燃える 燃える 燃える 燃える火 燃える炎 そう例えるならば それは灼に燃える炎のようなもの 柔らか...
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かむがたりうた 第弐章「ハジマリ」

君が往き 日長くなりぬ 造木の           迎へを行かむ 待つには待たじ         「古事記」下巻・允恭記  どこで何を間違えたのか考えてみる  母さんがいなくなってから俺と父さんはずっと二人で暮らして来たが、実際は父さんと話...
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かむがたりうた 第参章「イエ」

われと来て遊べや親のない雀         小林一茶 天井を見て 一瞬別の世界かと 思った 「…………ああ、そうか」  うっすらと開いた目をこすりながら安は掛け布団を上げた。この三日で俺の人生は大きく変わった。本当に別の世界に来てしまったよ...
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かむがたりうた Another 第壱章「セイギ」

すべての人に関心のあることなんてあるだろうか?だれにでも、世界のどこに住んでいる人にでも、あらゆる人間に関係あることなんて、あるのだろうか?あるんですよ、親愛なるソフィー。         「ソフィーの世界〜哲学者からの不思議な手紙〜」  ...
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かむがたりうた 第肆章「カイコウ」

「ねえ。賭けをやりませんか?」 「賭け?」 「ええ。金の賭けですよ」 顔が赤黒く染まり、手がすこし慄えている。 「ぼくは火口を一周してきます」 「どうぞ」 「それでだ」 弁当の残りをトランクにしまいながら、丹尾は言った。 「一周の途中に、ぼ...
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かむがたりうた 第伍章「チカラ」

「人間は、正直でなければならない、と最近つくづく感じます。おろかな感想ですが、きのうも道を歩きながら、つくづくそれを感じました。ごまかそうとするから、生活がむずかしく、ややこしくなるのです。正直に言い、正直に進んで行くと、生活は実に簡単にな...
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かむがたりうた 第序ノ壱章「エン」

雲雀は 天に翔る 高行くや          速総別 雀取らさね         「古事記」下巻・仁徳記 「素粒子理論の論文集?」 「はい、探してるんですけど、図書館にはなくて」 「持ってたかなぁ……河合先生の所は行った?」 「ええ、足立先...
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かむがたりうた 第陸章「ヤマイ」

「ワタシハ ナント イフ フシアハセナ モノデセウ。ワタシノ セナカノ カラノ ナカニハ カナシミガ イツパイ ツマツテ ヰルノデス」 ト ハジメノ デンデンムシガ ハナシマシタ。  スルト オトモダチノ デンデンムシハ イヒマシタ。 「ア...
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かむがたりうた 第漆章「ヤドガエ」

待つ身につらき夜半の置炬燵、それは戀ぞかし、吹風すゞしき夏の夕ぐれ、ひるの暑さを風呂に流して、身じまいの姿見、母親が手づからそゝけ髮つくろひて、我が子ながら美くしきを立ちて見、居て見、首筋が薄かつたと猶ぞいひける、單衣は水色友仙の凉しげに、...