天球儀

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天球儀 ep.1 三月「牡羊座の始動」

2010年2月 『私立楷明大学附属高等学校 特待入学生試験 面接会場』 そう書かれた扉の前でセーラー服姿の少女は高鳴る鼓動を抑えようと必死だった。(落ち着け、落ち着け、学科試験はよかったはずだ。人の字を呑むなんて迷信よ!) 考えれば考え...
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天球儀 ep.2 四月「牡牛座の出来心」

 電車の長いトンネルをくぐる時いつも不安になる。 雨は降っていないだろうか。 ちゃんと学校に着いているだろうか。 あの人は…  茶色のしなやかな髪をひるがえして、強かに笑うのだ。 無愛想な顔をしながら、それでも「おはよう」と言うと必ず笑...
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天球儀 ep.3 五月「双子座の退行」

「まっゆり〜、おはよ〜」「おはよ……」毎朝聞きなれたその声にまゆりは返事をし、その姿を確認し、ギョッと目を丸くした「ナル!その制服!」「だってナルにはこっちの方が似合うもん。かわい〜でしょ〜?」 ナルは本来ふくらはぎも隠す長さの制服の十二宮...
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天球儀 ep.4 六月「蟹座の幸福」

 中間テストが終わり、衣替えも終わり、梅雨がその兆候を見せだしていた。 十二宮は楷明大とその附属高校で初夏に行われる文化祭の準備で慌ただしかった。蛇遣座の高坂南も十二宮室に加わって書類に追われている。 しかし、観月祐歌はインターハイ予選に向...
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天球儀 ep.5 七月「獅子座の未来」

「そういえば、進路希望出しました?」 十二宮室に集まった面々は終業式までに済ませなければならないそれぞれの仕事に精を出していた。「どうせ皆、楷明大でしょ」 永戸滋はあっさりと言う。「永戸さんはモデル一本ではやらないんだ」「現役女子大生、しか...
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天球儀 ep.6 八月「乙女座の恋煩い」

(な〜んで夏休みまで毎日学校に行かなきゃならないのよ、メンドくせ。やっぱり十二宮なんて入らなきゃよかった。十二宮なんて入らなくても私の成績なら楷明大くらい余裕で…) 心の中でぼやきながら矢井田桂子は炎天下の下を歩いていた。いつもは車通学なの...
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天球儀 ep.7 九月「天秤座の失望」

「石灰が足りない?体育祭は来週なのよ!業者に無理言ってもらってきて、多少予算オーバーしてもいいから!」「二年六組と八組の学級発表会のテーマが提出されてません」「すぐに催促に行ってきて!ただし、体育祭優先で!観月さんは?体育祭の進行表頼んでた...
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天球儀 ep.8 十月「蠍座の義務」

「バカモンが!」 父親の怒声が広い事務所中に広がった。机に並べられていた書類が辰弥の顔面に投げつけられる。事務所の社員の視線が一身に集まる。母親が慌てて止めに入った。「あなた!辰弥と取石さんも、とりあえず応接室に!」 辰弥の母親は事務所員に...
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天球儀 ep.9 十一月「蛇遣座の日常」

 蛇遣座会長・高坂南の朝は早い。 夜明け前に起きて、髪を丁寧に梳き、眼鏡を拭き、かける。紺色の制服に着替え、姿見の前でしわや乱れがないことを確かめる。鞄の中は前日の夜に確かめた。忘れ物はない。一番乗りで十二宮室に入り掃除や準備ができるよう、...
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天球儀 ep.10 十二月「射手座の親愛」

 冬も本番になり、コートが目立つ季節になった。まゆりは十二宮の白制服の上から去年も着たコートを羽織り登校していた。「クリスマスパーティー?」「そ、十二宮のみんなでね。二十四日は終業式で忙しいし皆予定あるだろうから二十三日にどう?」 朝、十二...