NOVEL

天球儀

天球儀 ep.9 十一月「蛇遣座の日常」

蛇遣座会長・高坂南の朝は早い。  夜明け前に起きて、髪を丁寧に梳き、眼鏡を拭き、かける。紺色の制服に着替え、姿見の前でしわや乱れがないことを確かめる。鞄の中は前日の夜に確かめた。忘れ物はない。一番乗りで十二宮室に入り掃除や準備ができるよう、...
天球儀

天球儀 ep.10 十二月「射手座の親愛」

冬も本番になり、コートが目立つ季節になった。まゆりは十二宮の白制服の上から去年も着たコートを羽織り登校していた。 「クリスマスパーティー?」 「そ、十二宮のみんなでね。二十四日は終業式で忙しいし皆予定あるだろうから二十三日にどう?」  朝、...
天球儀

天球儀 ep.11 一月「山羊座の復讐」

生徒だけでなく教員も一斉にざわめいた。  伊賀リョウスケは何事もなかったように平然と壇上から降りてくる。そして十二宮の席の前を素通りしようとした。 「ちょっと、伊賀君!潰すってどういうこと?」  まゆりの言葉に振り返る。その目はまゆりの知っ...
天球儀

天球儀 ep.12 二月「水瓶座の本気」

「な、中務君!どういうつもりだ!事と次第によっては大学への特待生推薦を取り消すことも出来るんだぞ!」  理事長の静止も聞かずにまゆりは壇上で生徒たちの反応を待った。  十二宮の席から一人の拍手が聞こえてくる。意外にもそれは矢井田桂子のものだ...
天球儀

天球儀 ep.13 三月「魚座の手紙」

「取石さん!」  深夜の病院にも構わずロビーで声を上げた。ロビーの一番奥の椅子に滋は黙って座っていた。 「……まゆりさん」 「詳しい話聞かせて!」 「…詳しいことなんて……わかんないわよ……私……」 「金城くんは?」 「ご両親と一緒に取石さ...
天球儀 其の零

天球儀 其の零 ep.1 三月「牡羊座の姫君」

世の中に自分を嫌っている人間はどれほどいるのだろう? そんなことを考える奴なんて余りいないかも知れないが、俺はほぼ毎日考えている。 そして結局途中で考えるのを止める。   要するに俺は俺が嫌いだ。       2010年3月1日   「亘さ...
天球儀 其の零

天球儀 其の零 ep.2 四月「牡牛座の親友」

真新しい一戸建てに携帯の音が鳴り響く。 「ミポリン。ケータイうるさいス。春休みくらい昼まで寝かせてよ」 「あ〜、ごめん〜。えっと〜ちょっと〜出かけてくるね〜」 「えー、まだ8時スよ。どしたの?」 「ごめんね〜」  バタバタと階段を駆け下りる...
天球儀 其の零

天球儀 其の零 ep.3 五月「牡牛座の横恋慕」

「暴力事件?」  五月に入っても十二宮室には二人きりだった。 「はい〜。2年生の女生徒が〜男に殴られて骨折したって〜。他校の高校生っぽかったって〜言ってますけど〜はっきりは分からないって〜」 「カツアゲでしょ〜」 「それが〜お金は1円も取ら...
天球儀 其の零

天球儀 其の零 ep.4 六月「蟹座の罪人」

「市川君……?なんで……」 「高坂先輩は伊賀リュウイチ先輩の友人だったんです。俺も従弟でよく一緒にいたので。それで高坂先輩が命令して……」 「なんなのよ、それ!?そんなことして誰が得するの!?」  病室にもかかわらず玲奈は大声を上げてしまっ...
天球儀 其の零

天球儀 其の零 ep.5 七月「獅子座の秘密」

「あの、すんません」  早朝の中務道場の前で立っていたまゆりに赤い髪の少年が尋ねた。 「はい?」 「ちょっと伺いたいんですが、小野香歩子はいますか?」  まゆりはその制服から自分と同じ高校だということは分かったが少年に見覚えはなかった。 「...