天球儀 ep.10 十二月「射手座の親愛」




 冬も本番になり、コートが目立つ季節になった。まゆりは十二宮の白制服の上から去年も着たコートを羽織り登校していた。
「クリスマスパーティー?」
「そ、十二宮のみんなでね。二十四日は終業式で忙しいし皆予定あるだろうから二十三日にどう?」
 朝、十二宮室に入ってくるなり、ナルは言った。
「バカバカしい。私は…」
「お兄ちゃんも来るって。イブに近所でクリスマスライブやるらしくて」
「カズさんが?行く!」
 突っぱねようとした桂子は途端に反旗を翻した。
「十二宮室で?二十三日は祝日だから多少騒いでもいいだろうけど」
「うん、他のみんなは?」
「俺は大丈夫ですよ」
「私も……夕方までならお仕事入ってないわね」
「あ、俺ダメだわ」
 加藤稔が手を挙げた。
「え〜何で?加藤クン」
「年末年始は時給四割増なんだよ。休日は一日中シフト入れちまった」
「熱心ねー」
「む〜、仕方ないなぁ。じゃあ来れたら顔出してよ〜」
「らじゃー」
 ひらひらと手を振った。
「あ、そうだ。クリスマスケーキっているよな?」
「うん…もう予約してるけど…」
「その予約取り消してさ、ウチのコンビニのにしねー?」
「え〜、コンビニのケーキ?」
「そう言わずにさ、予約取れたらマージン入るんだよ」
 鞄から申込書を兼ねたケーキのチラシを取り出す。
「この人数なら二、三個は用意するだろ?」
「ったく、どこまで守銭奴なんだか」
「仕方ないわね。ナル、予約してるケーキはキャンセルするか家で食べて」
 まゆりはチラシを受け取ると予約欄に自分の名前を書いた。
「分かったわよ。その代わりブッシュドノエルじゃないとヤだからね!」







  ピンポンピンポーン
「らっしゃいませ〜…って会長?」
 コンビニの手動ドアが開く。稔の慣れた挨拶とともに入ってきたのは制服姿のまゆりだった。
「あれ、加藤くん。コンビニでバイトってここだったんだ?」
「おう、学校から近い方が通いやすいだろ?」
「なるほど」まゆりは紙パックの野菜ジュースを取って来ると百円玉と一緒にレジに差し出した。
「今日は?帰りにしちゃずいぶん遅いじゃん」
 バーコードを通しながら稔は尋ねる。すると奥の控え室からゴホンゴホンとわざとらしい咳払いが聞こえた。
「今日はどうされたんでしょうか?帰路としてはずいぶんと遅いではないですか」
 どうやら咳払いの主は店長らしい。棒読みで台詞をたどたどしい敬語に直した。まゆりは笑いながら言う。
「うん、大学部に用事があって」
「大学部?楷明の?」
「クリスマスパーティー、館林先輩も呼ぼうと思って。携帯に連絡したいんだけど授業中だったら悪いし、直接大学に行こうかなって。久々に直接会いたいし」
「館林…ああ、前の会長か。そうだな、水曜は実習か何かあるみたいで結構遅くまで学校にいるぜ」
「え、ここにもよく来るの?」
「ああ、飲み物とか買いに…っと袋いる?レシートは?」
「いらない。シールでいいわ。ストローはつけてね」
 紙パックを通学鞄の中に押し込んだ。







(大学部なんて推薦入試の見学会以来だなぁ)
 大きな門にもたれて、まゆりは息をついた。ジュースのパックを開けてストローを挿して飲む。大学でもこの白制服は目立つようだった。好奇の目にさらされながらも待つこと数十分。待っていた人影が見えてまゆりは顔を上げた。
「館林先…」
 手を振ろうとして、横を歩くロングスカートの女性の姿が目に入った。ショートボブの似合う凛とした雰囲気の人。思わず隠れようとしたが、それより早く館林がまゆりの姿に気づいた。
「まゆり?」
 ジーンズに皮ジャケットの館林は無邪気に手を振る。
「おーい、まゆりだろ?」
 渋々と正面に向かって頭を下げた。
「誰?」
 隣の女性が尋ねる。
「今の附属高の牡羊座。前に話しただろ?で、こっちが俺の前の牡羊座」
「…レナさん?」
「よく知ってるわね」
「小紫先輩と酒本カズ先輩から聞いたことが確か医学部で」
「高校時代からの館林の彼女です」
 レナ、と言った女性は牽制するように笑ってロングスカートを風になびかせた。
「……え?」
「やーっぱりだ。タテ、この子にも手出してたでしょ?」
 館林は困り果て頭をかいた。
「離れて過ごす一年間は好きにしていいって言ったのレナじゃん」
「限度ってものがあるでしょ?十二宮の子に手ぇ出すなんて」
 −ああ、なんだそうか。
  まゆりは視界が一度に開けたような気がした。
  まゆりとつき合うのを『卒業まで』としたのも
  まゆりに気のないそぶりをしていたのも……
「この人がいたからなんですね?」
「…うん」
 涙を必死でこらえた。
 こういう人なんだ。
 頭では分かっていたのに。
 分かってなかったのは私だ。
「今日は何か用があったんじゃないの?」
 悪びれもせず館林は尋ねる。
「……いえ、大した用じゃなかったので」
 まゆりは素早く頭を下げると、その場を駆け出した。







 バカだったのは私だ。
 バカで考えなしで…。
 でも
「好きだったのに……私は…」
 足下がふらつく。
「私は…」
 息が詰まる。
「まゆり!」
 それでも追いかけて来てくれたのか、館林の声が聞こえた。
 太い腕の中に落ちる。
 でも違う。この感触は館林先輩のものではない。
 私の意識はそこで途切れた。
「君は…?」
 まゆりを抱え込んだのは赤い髪の少年だった。館林はコンビニの制服を着た少年に眉をひそめる。
「お忘れでしょうが、現十二宮射手座・加藤稔と申します。会長はこちらでお預かりしますのでご安心を」
 それだけ言うと、両手で気を失ったまゆりを抱え、立ち去った。







 子供のはしゃぐ声でまゆりは目が覚めた。
(何?ここ…どこ?)
 目を開ければそこは古いアパートだった。小学生くらいだろうか子供三人がお菓子を取り合って走っている。
(温かい…)
 ぼんやりした頭が次第に鮮明になり、それが人の体温だとー自分が後ろから誰かに抱きしめられて座った状態で眠っていたことに気づく。
 思わず振り返る。
 真後ろにあった顔と額がぶつかった。
「痛ぇ…と、会長起きたか。俺も半分寝てたわ」
「か、加藤君!」
 困惑しつつとりあえず立ち上がって数歩後ずさる。顔が紅潮するのが自分でも分かった。
「そんな怪しむなよ。何にもしてねー…っていうかこんなガキの見てるところで何か出来るわけないだろ」
 上は赤いフリースにジーンズ姿の加藤稔はポリポリと頭をかいた。
「覚えてねー?大学部に行くって言ってたから、ひょっとしてレナ先輩と館林先輩にハチ会わせしてんじゃないかと思ってバイト抜け出して追っかけたんだけど、図星だったみたいだな」
「…って、じゃぁここは…」
「俺ん家。狭いしうるさいけどゆっくりしてけよ。コーヒー入れるから。インスタントだけど」
 立ち上がり子供の間を器用にすり抜けて隣接した炊事場へ向かった。稔が歩く度、傷んだ畳がギシギシと音を立てる。ヤカンに火をつけると走っていた子供の一番年上であろう女の子が笑ってまゆりに声をかけてきた。多分小学五,六年生くらいだろうか。
「お姉ちゃん」
「ん?なぁに」
「みの兄の浮気相手?」
 ぶほぅ、とまゆりと稔が同時に吹き出す。
「こら!つぼみ!てめぇ、そんな言葉どこで覚えた?」
「え?だって、みの兄には小野さんがいるから浮気でしょ?」
「浮気じゃない!単なる生徒会の知り合いだ!」
「小野さん?」
「うん、小野香歩子姉ちゃん、みの兄の彼女」
「小野…香歩子……って…えっ!?まさか…!?」
 稔がニヤリと笑った。
「夏には捻挫でご迷惑おかけしました。中務流空手道場の門下生ですよ。中務の一人娘さん」
 まゆりの血の気が引いて行く。
「な、なんでそれを…」
「いや『中務』なんてそうそうある名前じゃないしさ、しかも会長腕っ節強いだろ?で、香歩子に聞いたら…」
「バレてた…ってことか」
 まゆりは大きくため息をついた。
「まぁ誰に言いふらすつもりもねーから安心しろよ。その方がいいんだろ?」
 返事はせずに小さくうなずくと、稔は満足げに笑ってまゆりの頭を乱暴になでた。というより引っ掻き回した。優しいんだ、と言いかけてやめた。これ以上調子に乗らせてたまるものか。







「お姉ちゃん、ご飯食べて行ってね」
 さっき声をかけてきた少女がエプロンをして炊事場に向かった。
「あなたが作るの?」
「うん、だって私長女だもん」
 しっかりした口調で言ってくる。
「加藤君って四人兄弟?」
「おう、お袋は一番下が産まれてすぐ男作って出てった。今も行方不明」
「お父さんは?」
「死んだ」
 あっさりと天気の話でもするように言い放つ。まゆりは慌てて口をふさいだ。
「そんな顔すんなよ。もう昔のことだしさ。そうだ、会長こっちに来いよ」
 立ち上がり、奥の部屋に招きいれた。2LDKだろう、寝室と思われる布団の積まれた部屋の奥の部屋には、大きな製図机があった。
「これは…加藤君の?」
「いや、でも夢だった。だからあれだけはどうしても捨てられなくてさ」
「『だった』?過去形?」
 稔はいつもの飄々とした顔を崩さず笑って話し始めた。
「俺の親父、建築家でさ、そこそこ儲かってたんだぜ。でも会社を辞めて独立してからはうまくいかないことだらけでさ。金持ち逃げされたり、顔なじみの客取られたりで。追い打ちでお袋が逃げるだろ。それでアル中になって飲酒運転でお陀仏」
 重い話をあっけらかんと言ってのける。
「でもさ、どんな駄目親父でも俺にとっての親父はただ一人で。だから憧れたんだ、建築家に。親父が生きてるときは俺が一緒に事務所やって…とか考えてた。けど中学のときに親父が死んで、ああ、俺は中卒で働くのかなぁって思ってたら、あいつらが…」
 弟妹を指差した。
「どこからか調べて来たんだ、楷明の推薦のこと。『お兄ちゃん、頭いいんだから大学まで行って』ってバカだよなぁ、人の気も知らねーで」
 稔は困ったように笑った。
「でもさ、楷明大に建築系の学部ねーんだよな。だから結局、建築家になる夢は無理ってワケ」
「そんな……!」
「だからさ」
 反論しようとするまゆりの頭に稔の大きな手が置かれた。
「会長は俺の分まで夢叶えろよ。どうやっても叶わない俺の分まで夢叶えて、すげー医者になれよ。俺が言えるのはそこまで」
 まゆりはブンブンと何度も頭を縦に振った。
「……頑張るから。私、頑張るから」
「うん、頑張れ」
 何度も何度も頷き続けた。







 翌日の放課後、楷明大医学部の校門で、またまゆりは佇んでいた。館林とレナが連れ立って歩いていた。
「あ…まゆり…」
 館林がまゆりに近づいたその時だった。
  ドカッ
 まゆりの右拳が館林の鳩尾を正確に突く。館林がその場にうずくまった。
「痛っっ!…ま、まゆり…」
「うわ…痛そ……」
 レナが思わず口を覆う。
「これでチャラにしてあげます」
 まゆりはニヤリと笑い、髪をかきあげた。
「それからこれ、招待状です。よろしければ十二宮室においで下さい。レナさんもぜひご一緒に」
 封筒を一枚差し出した。
「気に入ったわ、えっと…まゆりさんだったっけ?」封筒を受け取ってレナは笑う「はい。館林先輩をよろしくお願いします」
 ペコリと頭を下げて踵を返した。





  うん、私は大丈夫
  風を切って歩く







「らっしゃいませ〜。お、会長…っと」
 稔が挨拶するより早くケーキの写真が入ったチラシを差し出した。
「これ、クリスマスケーキの予約。ウチの道場でもパーティーやろうって」
「うわ、マジ?助かる!サンキュー!…お、四個も?」
「道場は大喰らい多いから。その代わり、家のことは内緒にしてよ。これはこの前のお礼と口止め料」
「分かってるって。医者になるんだろ?」
「うん、館林先輩と出会うずっと前からの夢だったんだもん。先輩と一緒にいられなくても楷明大に行って医者になる」
「俺の分まで頑張ってくれよ」
「任せといて!じゃーね。バイト頑張って」
 まゆりは明るく手を振り店から出て行った。
「頑張れよな、会長」
 丁寧な字で書かれたチラシの裏面をなぞって笑った。







「まゆり!まゆり!大変!」
 登校するや否や校門で待ち伏せていたナルが飛びついてきた。
「どうしたのよ?いきなり」
「いいから!掲示板見て!」
 小さな体でまゆりの腕を引っ張って校舎前の掲示板の前に引っ張ってきた。そこは十一月の末に行われた期末テストの成績上位者が張り出されている。
「一体…」
 言いかけて顔を上げたまゆりの目が凍りつく。
「な……?」
(やられた…)
「ちょっと、まゆり。これどういう……」
「特待生が特待生に負けるんなら問題ないだろ?最後のテストくらい本気出させてもらったぜ、会長」
 後ろから稔が肩を叩いた。
「どうやったらあれだけバイトして…」
「言っただろ?『お兄ちゃんは頭いいんだ』って」
「本気を出せばいつでも勝てたってこと?」
 誰もが呆然と見上げた掲示板の最上部には『一位 加藤稔』の文字が。『二位 中務まゆり』の字はその真下にあった。
「頑張れよ、会長」
「やっぱり…こいつとは気が合わないわ」
 まゆりは力を落とし呟いた。







「というわけで、まぁいろいろありましたが…」
 十二月二十三日・祝日、十二宮に集まった全員がグラスを高く掲げ、声を揃えた。
「メリークリスマス!」
 机には飲み物とケータリングの料理が並んでいる。
「結局、館林先輩も呼んだんですね」
「まぁね、後腐れなくしたいからレナさんも一緒に」
 ささやく真人にまゆりは笑って頷いた。
「ああやって見ればあの二人、お似合いよね。悔しいけど私じゃ及ばないくらい」
「そんなこと……ないと思うけど……でも…」
「好きな人に彼女がいたからって、あっさり他の男に乗り換えるような女に見える?悪いけど、香我美くんとつき合う気はないからね」
 自分が言おうとしたことを先に言われ、真人は肩を落とした。
「取石さんは明日で学校来るの最後なのよね?」
「ええ、お医者様にもそうするよう言われていますし、お腹も目立ってきましたし。皆様には本当にご迷惑をおかけします」
 椿は頭を下げる。
「仕事のフォローは俺がするから、椿はゆっくり休め」
 辰弥が頭を叩く。
「そうそう、その間に辰弥のこと盗っちゃうかもしれないけどね〜」
 滋が舌を出して辰弥の腕を抱いた。
「あの…よかったんでしょうか?私達まで呼んでいただいて」
 高坂南と三好なずながおずおずと顔を出す。
「何言うとるんや、次期十二宮が」
 後ろから祐歌が二人の肩を抱いた。
「そうぞうしい」
 部屋の隅でオレンジジュースを飲みながら夏希が呟いた。
「出るか、夏希?」
 気遣う亮良に笑って見せた。
「いや わるく ない」
 亮良は胸を撫で下ろす。
「カズさん、お料理取り分けますね。何か苦手なものとかありますか?」
「いや、ありがとう。桂子ちゃん。いいお嫁さんになれるよ」
「そ、そんな…」
「ぶー、お兄ちゃんの好きなものはナルが一番知ってるんだから、ナルが取り分けるの!」
 ナルは桂子から皿を奪い取った。
「何するのよ!あんたは須磨さんの分、取り分けなさいよ」
「そうそう」
 桂子の言葉に、須磨拓海がナルの肩を叩く。
「そもそも何で十二宮とは縁もゆかりもないこいつがここにいるのよ?呼んだの誰よ?」
「縁もゆかりもって…ひどいな。カズさんが連絡くれたんだ」
「お兄ちゃん!何してくれるのよ!」
「ほら、いい加減意地張るのやめろって、ナル」
 カズがナルの頭をなでた。
 ガラっと十二宮室の扉が開く。
「ど〜も〜宅配です〜」
「加藤君!来られないんじゃなかったの?」
「おう、届けに来ただけ。配達係代わってもらってさ。おかげでここに来る口実ができた。すぐ帰るけどな。えっと…ブッシュドノエルとアイスケーキとイチゴのホール一つずつでよかったよな?」
 手際よく料理の間にケーキを並べていく。
「何かいろいろあったけど…こうやって終わっていくのかなぁ」
 窓際にもたれ、全員の様子を眺めながらまゆりはゆったりと言う。今の十二宮が終わるまであと三ヶ月。こうして平穏と変化を繰り返し終わっていくのだろうか。
 そうだといい。ずっとそうして…。
  ガッシャーン
 突然部屋にガラスの割れる音が響いた。
「カズさん!」
「お兄ちゃん!」
 カズの額から血が滴り落ち、服と周りの床にはコーヒーとグラスの破片が散らばっていた。
「ちょっ…何するのよ。伊賀君!」
 割れたグラスの底部を持ってカズの前に立っているのは伊賀リョウスケだった。慌ててまゆりが駆け寄る。桂子はポケットから出したハンカチでカズの傷口を押さえた。
「伊賀君…何が…?」
「…よくそんなこと言えますね」
 周りが心配そうに取り囲む。
「…俺はただ…館林やレナも来てるんだったらリュウイチも来ればよかったって」
「だから…よく貴方がのうのうとそんなことが言えますね!」
 リョウスケが声を荒げるのを初めて聞いた。ここにいる全員がそうだろう。
「兄さんが一体どんな思いでいるか…」
 リョウスケは乱暴に上半分のなくなったグラスを置くと、鞄を手に取り部屋を後にした。
「大丈夫ですか?カズさん」
「うん、ちょっと切っただけだから気にしないで。それより…」
「どうしたんだろ、伊賀君…」
「さぁ、俺にも全く…」
 全員がリョウスケの去っていった扉を見つめた。







 二学期終業式当日。
「次は生徒会からの挨拶です」
 妹尾亮良の声にまゆりが立ち上がろうとすると、それを抑えるように肩に手をかけられた。
「伊賀くん?」
 手の主は伊賀リョウスケだった。
「会長、挨拶代わってもらえますか?」
「え?う…うん」
 笑顔で言うリョウスケにまゆりは座り直した。
「珍しいわね。いつも大人しい伊賀くんが」
「ちょっと伝えたいことがありまして」
 壇上に向かう。







 壇上に上ったのがまゆりではないことに生徒たちは少しザワついた。
「えーっと、皆様おはようございます。今日は僕が個人的に考えていることを言わせていただきたいと思います」
 ザワめきは一層大きくなる。リョウスケは一瞬黙り、何かを考えるように俯いてまた顔を上げる。
「これは…これは冗談でもハッタリでもありません」
 決意したようにまっすぐに全校生徒を見据えた。
「僕は…僕、伊賀リョウスケは」
 続いて出たのは誰もが予想だにしなかった言葉だった。
「十二宮を……潰します」



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