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0831 8月21日(土)

待ち合わせは駅からすぐのホテルのロビーだった。義母のとりなしで段取りを組んでもらったおかげでスムーズに会えた。 東数弥は思っていたよりしっかりした人物だった。土曜日で仕事は休みと聞いていたのにスーツをきちんと着て俺に一礼した。  しかし、そ...
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0831 8月22日(日)

数弥さんは俺に断りを入れると煙草を一本だけ吸った。 「どうもうまく話が行ってないようですね」 「はい」 「順を追って話しましょう。凜が幼い頃に母親と私が離婚したのは」 「知ってます」 「実はその離婚の原因が恥ずかしい話ですが妻の妊娠中に浮気...
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0831 8月23日(月)

何のことはない。  俺一人蚊帳の外だったのだ。  俺一人、ただの偶然の『ひがしかずや』  東和也と東数弥は実の親子で7月31日も大学の友人とでなく実父と義弟と3人で会っていたのだ。  そこで強く思ったのだろう。 「昔に帰りたい」と。  義父...
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0831 8月24日(火)

「おじちゃん……誰?」 「おじちゃんは未来からやってきた凜ちゃんの将来のダンナさんだよ」 「えー、うそー!」 「本当だよ。未来ではタイムマシンが作られて今の凜ちゃんに会いにやってきたんだ」 「じゃーねー、凜は大きくなったらどんな人になってる...
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0831 8月25日(水)

義母の了解を得て、俺一人の手に負えなくなるまで凜を預かることにした。  凜には俺は遠い親戚で夏休み最後の1日だけ遊びに行く、ということにしている。  どうせ毎日説明しなければならないが。  凜は7歳。いつ最後になるのか分からない。 「凜ちゃ...
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0831 8月26日(木)

凜の小学校の卒業アルバムを探したが『かずや』という子はいなかった。しかし、それに添付してあったクラス名簿の2年のところに確かにいた。『倉橋和也』が。備考の欄に『2学期に大阪に転校』と書かれている。  苗字が違うのでただの同名かもしれない。し...
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0831 8月27日(金)

「すみません、お仕事中に」  俺は凜の手を引いて和也さんの職場を訪れた。和也さんは凜を見て驚いたようだった。 「何も変わってないのに、周りの空気が違いますね。若返ったようで……本当に」 「ねーおじちゃんーかずやくんはー?」 「和也さん。この...
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0831 8月28日(土)

「凜ちゃんに質問があります」 「ちょっとまって!いまいそがしいの!」  凜が突然ホットケーキを食べたいと、しかも自分で作りたいと言い出した。真剣な顔でボールからベタベタと素をこぼす31歳児を滑稽な目で見ていた時だった。  凜の要望に応じ、フ...
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0831 8月29日(日)

凜の荷物をまとめた。服と雑貨と……本はいらないだろう。  棚を探っていると一枚の封筒が落ちてきた。小花柄で彩られた上品な封筒。住所は書いてない。ただ『東和也さま』となっている。大学時代のものだろう。きっと出したくて、出せなかった手紙だ。  ...
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0831 8月30日(月)

「何を馬鹿なことを……」 「あなたはっ!」  俺は思わず声を荒げ、妻のスマホを義父に差し出した。 「この携帯の暗証番号を解除できますか!」 「何を言うんだ?」 「いいから!やってみてください」  義父は戸惑った表情を見せる。 「暗証番号……...