0831 8月20日(金)




 初めて妻と会った時のことを思い出す。
 仕事だった。ライターと印刷会社の事務員の打ち合わせ。
 転属されたばかりだという神原凛、という女性を俺は特に何とも思っていなかった。
 ただ、今思い起こせば俺の名刺を見た時、彼女は少し驚いた顔をしていた。
「すみません、知人と名前が似ていまして」
 それだけ言うと彼女は打ち合わせの席に着いた。俺はそれを露程も気に留めなかった。
 今思えば、それは大学時代の片恋相手だったのだろうか。実の父だったのだろうか。
 三人の『ひがしかずや』の中で妻は何を思って生きていたのか。
 新幹線に揺られて二時間半。
 この小旅行に東和也を誘おうと少し思ったがやめた。彼には彼の世界がある。
 列車は新大阪に到着したことを告げる。
 さぁ、ひがしかずやに会いに行こうか。



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