初めて読む短歌の話

たこわさん(私の夫:以下この名前にする)は国語が大の苦手だ。
特に子規の故郷・松山出身で小学校の時から俳句を強制的に作らされたのがトラウマで、俳句と短歌にはアレルギーレベルの苦手意識を持っている。

私と出会ったとき、私は散文詩の畑にいたのだけど、最初に「詩や文章に関しては読まないし読めないし理解できない」と釘を刺されて、私も特に読ませようとしなかった。
私のことをご存じの方は私がここ数年毎日欠かさず一日一首は短歌を作ってるのもご存じかと思うけど、一つも読んでいない。理解する前に見ていない。絵は見てるのに。
たまにいい歌を見せて説明しても宇宙猫の顔で虚無を見てる。右から左に行ってる。

具体的にどのレベルの知識かというと、百人一首は何首あるのか知らない、サラダ記念日を知らない、石川啄木はなんか文豪ってことだけは知ってるが歌人だと知らない、もっと言うと学校の国語の教科書ではポディマハッタヤさんの豆カレー以外なにも覚えていない、という小学校に行ってたのかが不安になるレベルだ。
国語以外の知識や体験を聞く限りちゃんと行ってたはずなので国語の時間だけ死んでたんだと思う。

そうして現在41歳になったたこわさんだが、ひょんなことから少し前からちゃんと本を読もうという気になったらしく、しょっちゅう図書館に行って私が本(主に最近の読みやすい小説)を見繕っていた。
そんな中ふと思い立って、一冊ちゃんと歌集を読むのを勧めた。

あまり深く考えなかったのだが、性別と世代が近くて、できるだけ最近出版されてメジャーな人がいいだろうと穂村弘の「水中翼船炎上中」にした。
俳句・短歌に関してはプレバトで夏井先生が「ここは『けり』じゃなくて『や』でしょ!」とか言われてるのを見て、なんか怖くて難しいというイメージしか持っていなかったらしく、実際読んでみた感想は「思ったより取っつきやすくて分かりやすかった」という割と月並みなものだった。

はい、ここから本題です。

全国の短歌研究をしてる方、文学部学生さん、41年間短歌を避けに避けてきたおじさんが、初めて歌集を読んでいいと思った歌を書き出してくれました。
ありがとう!
あくまでたこわさんの主観による母数1のデータですが、めちゃくちゃ貴重なデータですよ!

言うまでもなく書いたことは全くない100%純粋読者!
何度でも言いますが41歳で初めて歌集を読んだ人はこういうのがいいと思うというデータなんてそうそう取れるものじゃありませんよ。

というわけで、たこわさんの了承を得て、穂村弘「水中翼船炎上中」からたこわさん(仮名・41歳男性)が気に入った歌を以下に抜き出します。
誤字等ありましたらご容赦ください。


長靴をなくしてしまった猫ばかりきっきらっと夜の隙間に

遠足のおにぎりここで食べようかあっちがいいか 吹いている風

しもやけでグーが握れぬ登校の朝にしゅーしゅー噴いている湯気

蛇っぽい模様の筒に入れられた卒業証書は桜井の匂い

銀色のかたまりっぽくみえたのは聖なる夜のこどものお酒

大晦日の炬燵蒲団へばばばっと切り損ねたるトランプの札

青空をみているうちに海老フライ 食べたくなっちゃた海老フライ

解けてゆく飛行機雲よ新しい学級名簿に散らばった(呼)

登校日まちがえてきた無人教室には雲の声ひびくのみ

夕闇の部屋に電気を点すとき痛みのようなさみしさがある

私の歩みにつれて少しづつ回転してゆく猫のあたまよ

夜ごとに語り続けた未来とは今と思えばふわふわする

初対面にしておそらくふたたびは会わぬ従妹の息の白さよ

母のいない桜の季節父のために買う簡単な携帯電話

吹きつける月のひかりが一瞬で洗濯物を乾かす夜だ

鮮やかなサンドイッチの断面に目を泳がせておにぎりを取る

春巻に海老が透けているぼくらの町はもう亜熱帯

カーテンもゴミ箱もない引っ越しの夜に輝くミルクの膜は

さっきまで食べていたのに上空を旋回してるホットドックよ

海に投げられた指環を吞み込んだイソギンチャクが愛を覚える


たこわさん的には自分の体験と被るものがよかったそうです。
イマイチだと思ったものも聞いてみましたが、どうも自分が直接体験したことのないできごとを描いたもの、暗喩的なものは理解しにくいみたいです。
背景の深さとかは深かろうと浅かろうと読み取れないので、そんなものがあるという発想がないよう(もはやただの暴言)
言葉選びや詩性もたぶん同じ。
ただただ共感性と自分が理解できるかだけで選んだようです。

気に入ったリストに入らなかったものを確認したい方は「水中翼船炎上中」をご購入なり図書館で借りるなりしてご確認ください。

赤ちゃんのような真っ新な気持ちで読んだ歌集の感想(ただの抜粋ですが)ご自由に何かの参考にしていただければ幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました