本命チョコの話

私の中学の同級生で大田さんという女子がいた。

女子だったが、サッパリした性格でショートカットで背が高くバスケ部のエースだった。

ちなみにウチは公立中学だったが女子バスケ部は全国レベルに強かった。

で、普段サバサバして笑顔を絶やさない大田さんがバレンタインが近づくにつれ鬱状態になっていた。

特にバレンタイン当日は死んでも教室から一歩も出ない姿勢を崩さなかった。

3年の時、私と大田さんは同じクラスだった。

2月といえば皆受験が近くてノイローゼになっているのに、大田さんだけはバレンタインのせいでノイローゼになっていた。

たまたま14日には体育があった。

体育の時間に教室に引きこもるわけには行かない。

私の学校は3年の教室が1階に、1~2年の教室は2階と3階にあった。

体育の授業が終わって、グラウンドから教室まで渡り廊下を渡るだけのはずだ。

歩数を数えたことはないが数十歩とかそういう距離だ。

教室で着替えていると大田さんが両腕から溢れんばかりのチョコを抱えて鬱全開な表情で帰ってきた。

下級生!

どこで待ち伏せてたの!?

ていうかなんで時間割まで把握してるの!!!?

当時は友チョコもなかったし、LGBTも百合文化もほとんど認知されていなかった。

セーラームーンのはるかとみちるが「あの2人結局何なの?女同士だから恋人じゃないよね?」という扱いだった時代だ。

その時代でこれだったのだ。

大田さんは結局どの男子よりも多くのチョコを携えて帰っていった。

私の住む神戸は高校受験はごく一部の超天才と、どうしようもなく勉強のできない子、あと部活とかに命賭けてる子を除いて本命を公立にして滑り止めに私立を受ける。

公立はその子の学力に合わせて選ぶのだが、私立は余程のことがなければ全員受かるので、完全に趣味とか通学の便利さとか何なら友達も受けるとか言う適当な志望動機で選んでいた。

で、私の頃は女子はほぼ2校に絞られていた。

立地も制服も偏差値も似た感じの女子校2つだ。

ちなみにそれぞれ仏教とカトリックだったので、正座が苦手な私は座禅よりは賛美歌がマシだな、とカトリックを選んだ。

公立受かったので行かなかったけど、そのレベルの志望理由で十分だった。

大田さんはバスケ全国レベルだったが、勉強もかなりできたので部活推薦は蹴って正攻法で公立受験を選んだ。

そして大田さんは通学に片道2時間かかる当時は珍しかった共学の私立を選んだ。

はっきり言って共学以外何一つ魅力のない学校だ。

これは聞いた話なのだが、三者面談でバスケ部の大黒柱は泣いたらしい。

「先生は!!私が女子校に行って!!!!無事に生き延びられると思うんですか!!!?」と

大田さんも無事に共学の公立に受かったので、たぶん今も生き延びていると思う。

多分……。

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