我輩はメダカである。
名前はまだない。
つい先日まで
なぜか花屋の店先で
三匹五百円という
靴下のような
値段で売りに出されてた。
気立てのよい飼い主を
夢見ることだけを生きがいに
三匹支えあい生きてきた。
ついに念願の飼い主が
見つかったかと思ったら
これが全くフザけた小娘で
「安かったから買っちゃった」と
かの有名なメダカの学校にて
主席を誇った我輩を
つくづく靴下扱いである。
こいつが実にけしからん奴で
部屋に暖房はないし
水のカルキ抜きも知らない
果ては
何を勘違いしてるのか
我々に金魚のエサを
無邪気に投げ入れてくる始末。
誇り高きメダカ一族を
あんなチャラチャラした奴らと
一緒にするとは何事か。
バイトが忙しければ
エサを忘れ
眠いと言っては
水換えを忘れ
ひとたび、ゲームを始めると
我々の存在すらも忘れる。
愛想がつきて
実家に帰らせてもらおうにも
故郷の川は
コンクリートに埋められて
その上
メダカの足〈ヒレ〉では到底
逃げ出すことすら叶わなく
もちろん
あの頭の悪い娘などに
我々の声が聞こえるはずもなく
これだからやっていられない。
メダカという生き物は
ひどく難儀で
ひどく不自由で
それでも三匹だけの水槽(せかい)
身を寄せあって生きている。
我輩はメダカである。
名前はまだない。
あの頼りない小娘が
メダカの偉大さに気づかぬ限り
きっと永遠にないと思う。