0831 9月4日(土)

「かずやおじちゃんー」
「どうした、凜?」
「あのね、りん、おじちゃんの絵かいたの」
 31歳の妻はクレヨンでベタベタにした大人の女性の手で画用紙を差し出す。そこには言われないと到底人とは分からないぐしゃぐしゃの丸が何重にもなっていた。
 9月1日から妻は1日に1歳ずつ年を取っている。これは、あと1か月で元に戻るということだろう。件の心理学専門の知人に話してみたら、珍しい症例だ観察させてくれ、と言われたが、丁重に断りを入れた。
 これでいい。このままでいい。
「りん、おじちゃんのおよめさんになるの」
 俺は凜の頭をなでる。
 凜は俺の膝に乗り無邪気な笑顔を見せる。
 もう他に何もいらない。俺は誰の代わりにもなれないが二人で歩いて行こう。
 これは俺と妻の物語なのだから。



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