えらい世の中になったなぁ

祖母が昨晩他界した。
享年97歳。
なかなかの長生きだったし、さほど苦しまずに、文字通り「ぽっくり」亡くなった。


ここ10年近く介護施設と病院を行ったり来たりで家には戻ってきたことがない。
気ばかり張った頑固な女性だったが
特にこれといった趣味や特技もなかったし
(最近はめっきり覇気がなくなっていたと母は言っていたが)
やり残したこともなく
早くに夫には先立たれたが、兄弟全員見送って、子供二人も元気で
従弟(父の妹の息子さん)には子どもがたくさんいて曾孫も6人でき
むしろ持て余し気味に過ごしていたらしいので
大往生だろうと思っていたが、ふと気になったことがある。



祖母は一人孫娘(従弟2人と兄1人だったので孫で女は私だけ)の私の職業を理解していたのだろうか。



理解していたというのは理解を示していたり、快く思っていたり
ということではない
何をしているか分かっていたのか、ということだ。



改めて私の職業を言うと
最初はDTPとwebの雇われデザイナー兼広告事務所の雑用
数年前からフリーのなんでもデザイナー兼ライター兼イラストレーター
最近はアプリのイラストや設計を中心に本当になんでも屋になっている。



同業者は分かるだろうけど、フリーのデザイナーやライターというのは余程名が売れるか、特例的に許可をもらわないと「このデザインは自分がやりました」というのを表に出せない。
私はほとんど「私がやったよ」というものは出せないまま祖母が逝ってしまった。
出せたとしてもペンネームだったりアプリのクレジットだったりで、祖母が一目見て「孫ちゃんがこんなに頑張ってこれをこうしたんだな」というものは全くと言っていいほどない。



そこで思うのがたった一人の孫娘が
一日中便利なテレビ(祖母はパソコンのことを最期まで理解できずこう呼んでいた)の前で
難しい顔をして猫背でリモコンみたいなの(マウスをこう呼んでいた)をカチカチしてるのは祖母の目にどう映っただろう。



従弟は二人とも某有名上場企業の会社員で、兄は工場作業員だが、どちらも一言言えば、毎日何をしているのか祖母も想像できるはずだ。
だがインターネットどころかパソコンの存在も理解できない祖母に「webデザインだよ」と言ったところで
「うんにゃらほったでめんちゃらぱったの仕事をしてるの」としか聞こえない。
「風俗嬢になる」の方がまだ分かる。止めようがある。
嘘でもいいから「(イラストレーターでなく)画家」とか、せめて「漫画家志望」とか言えばよかったかもしれない。
ただ、若いころの私は画家は不安定で大成するのに時間がかかるイメージしかなく
むしろ「webデザイナーをしてる」の方が安定して仕事してるアピールできている気分だった。



高校の時「(DTP)デザイナーになる学校にいく」と言ったら
「孫ちゃんお洋服作るの?」と目を丸くされた。
その時、印刷関係のお仕事だよ、雑誌や新聞作りたいな、と説明すればよかったかもしれない。
(当時はさほどwebが浸透していなかったので、webデザインの仕事は頭になかった)
しかし、印刷でなく編集でもなくデザインに、と思っていた私はあえて「デザイナー」という説明に固執してしまった。


冒頭で祖母はやり残したことがないと言ったが、私がやり残したことがあった。
後悔先に立たずだが、私の仕事を説明することだ。



主人と婚約した時、彼と母を伴って施設の部屋に行って「福祉の相談員さんをしてるのよ」と言ったら祖母は心底安心した顔をした。
あれは相談員が安心な仕事という以上に
「自分の理解が及ぶ範囲に孫(私)が収まってくれた」という顔だったのかもしれない。



私が幼いころの祖母の口癖は「えらい世の中になったなぁ」だった。
私が小学校に上がる時、母に36色の色鉛筆を買ってもらったら、その配色を眺めながら何度も何度も「子どもがこんな綺麗なもの持てるなんて、えらい世の中になったなぁ」と言っていた。


しかし、いつの間にか言わなくなった。
単に、外に対する興味がなくなって言わなくなったのかと思っていたが
改めて思い返すと、大正を生きた人には「えらい世の中」と思う理解の範疇すらも越えてしまったのかと思う。
色鉛筆は何なのか分かる。
子どもが持っているのはすごい世の中だと思っても、何に使うものなのかは分かる。
でもパソコンは何のためにあって何ができるのか全く分からない。


インターネット、携帯電話、タブレット


「えらい世の中」でなく「わけのわからない世の中」だろう。



死後の話になってしまったが、遺影を選んでトリミング補正する作業だけは葬儀社に任せず私がやらせてもらった。
喪中はがきも作るつもりだ。


おばあちゃん、わけのわからない仕事だけど、こんなことを孫娘はやってますよ。


通夜までの時間つぶしに
三十路を過ぎた可愛い孫娘は先日からハマっている城プロをすることにする。
お色直しが終わらない。

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