NOVEL

あとりえ透明

あとりえ透明「水彩色鉛筆」

快晴だった。  見渡す限りの秋晴れだった。 「いー天気だねー。スケッチ日和ー」  『あとりえ透明』の最寄り駅から電車で三十分強。山道は無理だろうと言うことで、ケーブルカーで高台に上れる小高い展望台を選んだのは松島さんだ。  土日が仕事の俺と...
あとりえ透明

あとりえ透明「カラーチャート」

頑張れば報われるって、皆言っていた。  私はそれが正しいと思ってたし、今も思っている。  どうにもならないことなんてない。   「お呼び立てして申し訳ありません」  本当はもう二度と会うつもりはなかった。  でもこれが 「中条さん」  これ...
あとりえ透明

あとりえ透明「パレットナイフ」

「絵が美しい」という自分の名前が嫌いだった。    誰に言っても厭味だと思われるから言わなかったけど、あたしの絵は美しくなんかない。    両親が画商だった。家には仕事で手に入れた珍しい画材と貴重な絵で溢れ返っていて、小さい時から文字を覚え...
あとりえ透明

あとりえ透明「ラテアート」

「ともちゃん。あたしね」 「ともちゃんを利用したんだ」 「もうあたしを愛してくれる人はいないから」 「あたしには画材しか残ってないから」 「画材しか愛してくれないから」 「ねぇ、誰かあたしを愛してよ」   「絵美さん」 「いないよ、そんなの...
あとりえ透明

あとりえ透明「     」

あたしの名前は、さわいずみ。  先月、小学2年生になった。  お母さんはきらい。しごとでいそがしいってぜんぜんあそんでくれないから。  お父さんもきらい。べんきょうしなさい、ばっかり言うから。  今日もピアノのかえりに一人であそんでいた。 ...
あとりえ透明2

あとりえ透明2「アッサム」

恋をした    高校の入学式の翌日  講堂前の広場で桜舞う中佇むその姿  桜色に映える緑のカーディガン  清楚な黒色の長い髪  長めのスカートの制服  そんな彼女は  振り返って自分を見止めると微笑んで言った       「あなた、メイドカ...
あとりえ透明2

あとりえ透明2「ダージリン」

「高見原さぁ、いつまでこんな生活してんだ?」 「こ・ん・な・せ・い・か・つ……?」  寒い季節だった。  10年ぶりに会った先輩に言われ、自分でもこめかみに青筋が浮かぶのが分かる。 「だってさぁ、まぁ大学から院生までは分かるぜ。そのあと研究...
あとりえ透明2

あとりえ透明2「ハニートースト」

ゴールデンウィークのある朝だった。 「お客様、来られますっ。お一人様、多分初めての方で女性ですっ」  携帯型のインカムで声が届く。皿を磨いていた私と一花さんはため息をついた。 「相変わらず便利ですね。せつなさんの人間カウベル。二階にいても外...
あとりえ透明2

あとりえ透明2「パッケージ・ティー」

「こんなのメイドカフェじゃねぇ!」  我慢ならず俺は机を叩いて、立ち上がった。店中の客の視線が集まるが気にしない。  向かいに座る友人の充から紹介してもらって、ついて来たのだが、想像していたのと何もかもが違った。  ミニスカートのフリルいっ...
あとりえ透明2

あとりえ透明2「ハーブゼリー」

別に娘を監視しようというわけじゃない。  そんな父親にだけはなるまいと心に決めていたのだ。  だが、心配ではないか。娘がメイド喫茶でバイトをするなんて。  メイドを見たいなどという下心があるだろうか、いやない。  と、反語を使って否定するく...