POEM

自由詩

傷跡を抉る睫毛

その姿は二十年前の面影を残しつつ歳相応に老けていて私は思わず目を疑った 貴方がこんな所にいるはずがないし私がここにいることも知るはずがないし ありえないし でも筋張った指も少し赤みがかった髪も長い睫毛もそのままで違うのは胸に下げた名前だけで...
自由詩

今日

かなしいことがあったという はらたつことがあったという 誰もが怒る世界の中で私は静かに眠っていよう 私には考え及ばぬところで必死に生きてる人がいる 歴史の本の一文字になる今を過ごしている感覚 いつか誰かに尋ねられたらあの時も悪くなかったと答...
自由詩

華祭り

きれいなドレスを身に纏い一番高いヒール履きありったけの華集め母にもらった耳飾り 今日は華の祭りの日 昼も夜もなく手を取ってあなたと踊り明かしましょう 疲れたら果実の酒を飲みあなたの膝で眠りましょう 足音鳴らしステップ踏んで四拍子を刻みましょ...
自由詩

責任の所在

無責任な女です 運転席は嫌いです 車なら助手席がバイクなら後部席全て貴方に委ねます 道に迷ったら貴方のせい 人を撥ねても貴方のせい 私は何もわるくない 無責任な女です 運転席は嫌いです 貴方に全て負ぶさってさぁどこまでも行きましょう 私が死...
自由詩

いちばんの理由

父は酔うと陽気になり饒舌になり途端に人がよくなった 酒よ返せ父を返せ気難しく気が短く人が嫌いな父を返せ こんなの父じゃない 父は無愛想で怒りやすく癇癪持ちなはずなのだ 父を返せ 世界中の酒という酒を私が憎むいちばんの理由 #30DayVer...
自由詩

初夏になる

春が来て私は眠りに誘われながら母の日特集のサイトを開く 昨年の初夏に臥せった義母に何を贈ればいいものか 食べ物は制限があるかもしれない 服はサイズがわからない 切り花は手入れが面倒で 鉢植えを贈るほど非常識でない 本は読んでいたものを贈って...
自由詩

一日一羽鶴を折る 貴方のために鶴を折る どこにもいない貴方へと 一日一羽鶴を折る 折った鶴は誰にも知られないように毎日捨ててしまいましょう 焼かれた鶴はもう何千羽か積もり積もって灰になり私の喉を詰まらせる それはこの世から消えた貴方からの罰...
自由詩

飽きない歌

煮穴子イクラ貴方の笑顔 甘海老マグロ貴方のジョーク 〆鯖うなぎ貴方の会話 サーモンカツオ貴方の文句 えんがわたまご貴方の笑顔 #30DayVerseChallengeDAY11:決して飽きない歌
自由詩

ハッピーバースデー

「なっちゃんがね 10歳になったでしょ? だからね シニア用の キャットフードをね いろいろ取り寄せて 試してるの」 電話口の向こうで実家の母は言う 「そうだね 10歳ってもう 高齢猫だもんね」 私は返し電話を切る 10歳になった時末っ子だ...
自由詩

秘密の歌

母は時々歌唄う 私の知らない歌唄う それは誰のなんて歌? 聞いても決して答えない 検索しても出てこない 母が時々唄う歌 あの頃の母と同じ年頃になり初めて気づく あの歌は父でない誰かと唄った歌だったんだね 父でない誰かへの想いを唄い笑って泣い...