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0831 8月11日(水)

一昼夜考え込んだが、俺は妻の携帯で『かず君』に電話をかけてみることにした。電話は思いの他あっさり繋がり、応答したのは俺と同じくらいの歳と思われる男性だった。  妻のことを男性はよく知っているようだ。聞くと、彼は大学の同窓生で7月31日は他の...
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0831 8月12日(木)

俺は押し入るように妻の家に入った。  妻の部屋のドアを強く叩く。 「凛!凛!いるんだろ!?」  返事はないが、俺は続けた。 「お前、歳を遡っていたふりをしていただけだったんだろ!?昔に戻りたくて!東さんと……大学の東さんと一緒にいたくて!」...
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0831 8月13日(金)

「どう……して……」  数日ぶりに妻の声を聞いた。 「分かったんだ!でも……俺はあの人にはなれないけど、俺なりに頑張るから……だから……もういいから……」  俺は声を押し出す。 「一緒に帰ろう」 「ごめん……なさい……」 「もういいよ……も...
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0831 8月14日(土)

妻は再び実家に戻ることになった。  18歳の彼女はありもしない課題のレポートを書き始めたらしい。携帯電話も当時は持っていなかったということで、俺が預かることになった。これで妻との通信手段は実家の据置電話と義父母経由の携帯だけだ。  俺は義父...
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0831 8月15日(日)

『かず君』……いや、東和也さんと会い、心当たりがあるかと聞いてみたが、彼は首を横に振った。妻とは大学入学の時に知り合って、それ以前のことは知らないと言う。 「ただ、家族と上手く行っていないみたいでよく悩んでいましたね」  アイスコーヒーを飲...
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0831 8月16日(月)

初恋の相手の名前を忘れられないなんてよくある話だ。俺は小学校の同級生だった。  だが、凜は何故そこまで『ひがしかずや』に拘ったのか。穿った見方をすれば、俺が『ひがしかずや』でなければ付き合ってもいなかったということか?  和也さんも俺のこと...
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0831 8月17日(火)

今、妻の心は15歳。  そういえば当時は渋谷は女子高校生のメッカだったか。警察もどう見ても成人女性なのに自分を高校生と言い張る凛に困り果て、免許証から家を割り出したらしい。  俺は警官にしきりに謝り、身元保証の書類を書いて警察署を出た。 「...
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0831 8月18日(水)

「24時間営業のマックなんていつできたのー?全然知らなかったー」  凜は物珍しそうに店内を見渡す。時間は午前2時を回った頃だが、どうやら記憶のリセットは眠ると起こるらしい。まだ歳の逆行は起こっていない。 「でー、おじさん誰―?どうせお母さん...
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0831 8月19日(木)

凜の父の名前は神原誠だ。知っている。 何度も聞いているし、婚姻届にも間違いなくそう書かれていた。何より妻の旧姓が自分と同じだったならば忘れるわけがない。  ふとした考えが頭をよぎる。  義母の携帯電話にかけてあることを問う。  もしかして ...
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0831 8月20日(金)

初めて妻と会った時のことを思い出す。  仕事だった。ライターと印刷会社の事務員の打ち合わせ。  転属されたばかりだという神原凛、という女性を俺は特に何とも思っていなかった。  ただ、今思い起こせば俺の名刺を見た時、彼女は少し驚いた顔をしてい...