かむがたりうた

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かむがたりうた 第拾漆章「ワカレ」

それからそれがどうなつたのか…… それは僕には分らなかつた とにかく朝霧罩めた飛行場から 機影はもう永遠に消え去つてゐた。 あとには残酷な砂礫だの、雑草だの 頬を裂るやうな寒さが残つた。 ——こんな残酷な空寞たる朝にも猶 人は人に笑顔を以て...
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かむがたりうた 閑話休題ノ章「ナギ」

空の雲さへ   日の暮れにや 風に吹かれて   はぐれがち 風はなさけに   吹くぢやなし 雨もなさけに   降るぢやなし どうせなさけの   風ぢやとて 涙まさせる   ことばかり         野口雨情「さむらひ」 「海に行きたい」 ...
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かむがたりうた Another第弐章「サボテン」

魚がこんどはそこら中の黄金の光をまるつきりくちやくちやにしておまけに自分は鉄いろに変に底びかりして、又上流の方へのぼりました。 『お魚はなぜあゝ行つたり来たりするの。』  弟の蟹がまぶしさうに眼を動かしながらたづねました。 『何か悪いことを...
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かむがたりうた 第拾捌章「デアイ」

こころよ では いつておいで しかし また もどつておいでね やつぱり ここが いいのだに こころよ では 行つておいで         八木重吉「秋の瞳」 「栄クン、西夜クン、ナヲさんは重傷。琉クンは眠ったまま。月子さんの居場所は分からな...
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かむがたりうた 第拾玖章「バンノウ」

「桜の花が咲くのだよ」 「桜の花と約束したのかえ」 「桜の花が咲くから、それを見てから出掛けなければならないのだよ」 「どういうわけで」 「桜の森の下へ行ってみなければならないからだよ」 「だから、なぜ行って見なければならないのよ」 「花が...
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かむがたりうた 第廿章「シンジツ」

安とナヲの「賭け」から二か月が経っていた。今年はさほど猛暑ではないが、それでもTシャツを着て、なお暑がる季節になっていた。叔母の家の前に立って、安は固唾を飲んだ。インターホンを押そうか戸惑う安の背中から声が聞こえた。 「安くん?」  振り返...
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かむがたりうた 第廿壱章「サイワイ」

燃えさかる炎よ ああ黒き瞳よ 美しき炎よ 素晴らしき瞳 愛しき 悩ましき その瞳 あなたを一目見て 私はあなたの虜 闇なりし焔よ ああ黒き瞳よ 凍てつく焔よ 底知れぬ瞳 勝ち誇り 焼き尽くす その瞳 あなたの炎で 私の心は痛む 私の幸せは ...
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かむがたりうた 第廿弐章「サイカイ」

若草の芽が萌えるやうに、この日當りのよい芝生の上では、思想が後から後からと成長してくる。けれどもそれらの思想は、私にまで何の交渉があらうぞ。私はただ青空を眺めて居たい。あの蒼天の夢の中に溶けてしまふやうな、さういふ思想の幻想だけを育くみたい...
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かむがたりうた 第廿参章「ヒトリ」

「愛は勝つ」と歌う青年       愛と愛が戦うときはどうなるのだろう         「チョコレート革命」俵万智 「どういう…ことや…」  三人の遺体が転がった境内で立ち尽くす琉真は後ろから肩を押された。  振り返ると、砂城に肩を貸した灯...
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かむがたりうた 第廿肆章「ネガイ」

母さんお窓をしめましよう、 もう郭公鳥は鳴きませぬ。 林の虹も消えました、 沼には靄がおりました。 母さんお窓をしめましよう、 風がひえひえいたします。 もうすぐ夜が来るのです。 もう郭公鳥も鳴きませぬ。 病気がおもるといけませぬ。 母さん...