かむがたりうた

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かむがたりうた 第捌章「マヨイゴ」

  一 からまつの林を過ぎて、 からまつをしみじみと見き。 からまつはさびしかりけり。 からまつはさびしかりけり。   二 からまつの林を出でて、 からまつの林に入りぬ。 からまつの林に入りて、 また細く道はつづ...
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かむがたりうた 第玖章「テキ」

 桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!  これは信じていいことなんだよ。何故つて、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことぢやないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だつた。しかしいま、やつとわかるときが来...
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かむがたりうた 第拾章「ゴミ」

山路を登りながら、こう考えた。 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。 住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出...
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かむがたりうた 第拾壱章「カコ」

そびゆる山は英傑の 跡を弔ふ墓標、 音なき河は千載に 香る名をこそ流すらむ。 此処は何処と我問へば、 汝が故郷と月答ふ。 勇める駒の嘶くと 思へば夢はふと覚めぬ。 白羽の甲銀の楯 皆消えはてぬ、さはあれど こ...
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かむがたりうた 第拾弐章「オンナ」

ぱさぱさに乾いてゆく心を ひとのせいにはするな みずから水やりを怠っておいて 気難しくなってきたのを 友人のせいにはするな しなやかさを失ったのはどちらなのか 苛立つのを 近親のせいにはするな なにもかも下手...
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かむがたりうた 第序ノ弐章「コイ」

あなたはずるい 明るく心配するふりをして 折々ひょいと電話をしてくる 秀才でスポーツマンで 誰からも好かれたのに わたしはときどき 面と向かってあなたに 悪態をつく 悪態をついても 決定的な決裂にはならない そう...
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かむがたりうた 第拾参章「グウゼン」

木は 木だから。 草は 草だから。 認識の出発点は あのあたりだった。 そこから すべてのこととすれ違ってきた。 自分の行く先が 見えそうなところまできて 私があわてて立ちどまると 風景に 早く行け、と...
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かむがたりうた 第拾肆章「タイジ」

春に浮かれ 夏に戯れ 秋に酔い どこかへ押しやっていた 故郷 昨年より 少しでも多くの 帰郷や便りをと 書き出したノートは 空白のまま もう 真っ白な霜が降りて 吐く息も白く 背中を丸めているにちが...
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かむがたりうた 第拾伍章「ショク」

見た目 どうなのか 鏡の前でじっと立ち これが他人から見た 私なのかと目を見る 自分の目だった 妻や子どもたちを 見るときと同じ 欲目やひいき目の 両眼なのだ 世間の鏡の前で 他人の目の コンタクトをつけ ちら...
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かむがたりうた 第拾陸章「オチル」

かなしい心に夜が明けた、   うれしい心に夜が明けた、 いいや、これはどうしたといふのだ?   さてもかなしい夜の明けだ! 青い瞳は動かなかつた、   世界はまだみな眠つてゐた、 さうして『その時』は過ぎつつあつた、 ...
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