紫暗色に満たされた空は、今夜も凍えながらこの枯れ果てた大地にも舞い降りる。
   キンと伝う外気は夜空を彩る光達を緊張させ、鮮烈な印象を月に捧げてゆく。貢がれた光は月を通して、霞の様な優しいものに変って、空気へと返還される。
   その残った因子がパチパチと燃える焚き火と遊び、また空へと昇ってゆく様を二匹の動物はずっと見続けていた。
  「なぁ、マンゲツ」
   片方が口を開いた。
  「…」
   言葉も無く、もう片方は音が聞こえた方に、首を傾ける。
  「オレ達の分け前、少し位、哀しんでるヤツにあげたってバチは当たらないよな?」
  「………」
   言葉を発しない動物なのか、何も語らない顔はまだ小さな動物を見たままだ。
   揺らめく炎が不意に乱れてゆく。
  「宝石の一つでも良い。それをあげたヤツの心に光が灯れば、何か良い様な気がしたんだ」
  「………」
   焚き火の火は互いの姿の確認と、めっきり冷え込んだ世界に暖を与える。
  「必要以上に盗っちまった時、オレ達だけでガメとくのは勿体無いと思ったんだよ」
   小さな動物は長い動物の「どうして?」と云う思いを汲む様に、言葉を続けてゆく。
  「……………」
   長い動物は視線をそっと焚き火に戻した。小さな動物が真剣に見ているものと同じものを瞳に映したかったのかもしれない。
   光の因子は炎に燻られ、橙色を身に落とす。
   何かの変わり目を表す様な気がした。
  「宝石には光る場所が無いと、その光はいつか鈍る。心もおんなじだ。だったらガメといた分の宝石を無駄に輝かせるよりも、誰かの鈍ちまった心をその光で明るくしてやたって、悪くは無いと思ったんだ」
   その時、流れ星が南へと滑っていった。だが、二匹は気付かなかった。変化の瞬間などそんなものだ。
  「………」
   不規則に与えられる温かさは、心のバラツキを暗示する。
  「ガラにも無い事言ったか?」
   小さな動物は不安そうに長い動物を見る。どこか、同意を求めるような表情だった。
  「……」
   長い動物は少し重たげに首を震わす。その行為を見て小さな動物は安堵を得られたのか、また焚き火を見た。
   その時、小さな動物は気付かなかった、長い動物の心と自分の心との間に、少しだけ温度差が出来た事を…。
   だが、それを長い動物は責める気は無かった。自分を護る事しか考えられなかった彼の行く末が、今変ろうとしているのだから…。
  「そうか…。…………こんなにも良い夜だと考えも変っちまうな……。なぁ、マンゲツ」
   そう言って、空を見上げる。
  「………」
   頷く代わりに一緒に長い動物も見上げた。
   温かな焚き火は全てを温める様に、月は誰の心にも届く様に、熱を光をこの世界に与え続けていた。
 
  「お―――い。マンゲツ、ミカヅキ。準備出来たよ。狩りに行くよ」
   遠くの方で少女の声が聞こえた。
   ミカヅキは身軽に立ち上がると、マンゲツがすかさず湾曲した剣を渡す。
   自分の背程までにある武器を受け取り、キラリと月夜に光らせる。その大きさは彼の勇気でもあり、誇りだ。彼にとってこれは弱い自分を打破出来る、自慢の一振り。この先の彼の剣は自分の為だけでは無く、他のものを護ると云う事で振るわれるだろう。
 
   彼らは盗賊。陽気な盗賊。胸の宝石の光、赴くまま彼らは旅をする。例え光が違う方向に傾いたとしても、彼らのパーティは崩せない。それよりも強い絆がしっかり、彼らの心を繋いでいるのだから…。
 
 
  終り
 
 
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