あとりえ透明「     」




 あたしの名前は、さわいずみ。
 先月、小学2年生になった。
 お母さんはきらい。しごとでいそがしいってぜんぜんあそんでくれないから。
 お父さんもきらい。べんきょうしなさい、ばっかり言うから。
 今日もピアノのかえりに一人であそんでいた。
 お母さんはより道しちゃダメだっておこるけど、あたしはこの時間が一ばんすき。
 ベンチで絵をかくお姉さんが今日もいた。
 えんぴつでずっとなにかをかいている。
「お姉さん、今日はなにかいてるの?」
「えっとねー、チューリップー」
「チューリップなんてさいてないよー」
「そうなんだー。今はなにが咲いてるの?」
「赤い花ー」
「赤かー。お名前は分かるー?」
「つつい……つむじ……?」
「つつじー?」
「そう!それ!」
「じゃあ、ツツジの絵描こうかなー」
 あたらしい紙をとりだしたお姉さんのポケットから大きな音がなった。
 あわててけいたい電話をとりだす。
「あー、ともちゃんー?婚活パーティー終わったー?えー?三丁目の公園にいるって言ったじゃんー。店番はいちかちゃんがやってくれてるー。じゃあ、お店に戻るよー。一人で大丈夫だよー」
 でんわのボタンをおしてポケットにしまうと、お姉さんはあたしのあたまをなでた。
「ツツジの絵は明日かくねー。できたら見せてあげるよー」
 お姉さんはゆっくりと立ち上がると、白いつえをもって、つえで前をさぐりながらあるいていった。
 とちゅうですれちがう人は、みんなお姉さんのつえを見ると、こわがってよけていく。
 




 お父さんとお母さんは、あたしにいっぱいべんきょうして、いい中学に入れって言うけど、あたしはべんきょうよりもピアノよりも、お姉さんみたいな、すてきな絵かきさんになりたいです。



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