短詩樹歌



すみません
君を愛しているけれど
米は洗って炊いてください
 
 
 
泡立てよ泡立て
白くなれシーツ
ウタマロ武器に死闘す早朝
 
 
 
看板を産直マルシェとした八百屋
それでも私は
買わないけれど
 
 
 
区役所の書類を前に
手が止まる
今年平成何年だっけ?
 
 
 
あなたとは見てる世界が違ったね
たけのこ派だし
ビアンカ派だし
 
 
 
お買い得な女だよ
酒も飲まないし
千円カットで髪も済ますし
 
 
 
夏神が
息絶え絶えに吐き出した鰯雲
今日秋が始まる
 
 
 
田舎から押し付けられた
お守りを持って
三度の厄年越えて
 
 
 
色褪せた
紅葉マークを取り払い
車の売り先考える通夜
 
 
 
今世紀最後の夜に
フラれたと泣いたあの娘も
三児のママに
 
 
 
「気にせんでええよ」と
祖母が繰り返す
湯呑が祖父の遺品と知らず
 
 
 
デパ地下の果物売り場に
行く度に探してる
21世紀梨
 
 
 
メロンパン
急にたくさん並べられ
寡黙な店主がファンなんだろう
 
 
 
「むき栗は嫌なの食べ過ぎちゃうから」
と胆嚢のない
母は笑って
 
 
 
青々し世界を
いつか残したく
油絵の具を捨てられずいる
 
 
 
十字路に
米がたくさん落ちていて
アナタノオウチハドコナンデスカ
 
 
 
物置に埃をかぶった
くまがいて
「まーちゃんがくれた宝物なの」
 
 
 
あなたから
私への愛は 生きるのに
欠かせないので8%で
 
 
 
誰そ彼に浮かび上がった細い影
踏まないように
そよるそよりと
 
 
 
たんこぶができても
けしてなかないよ
わたしさびしいこどもじゃないよ
 
 
 
もし私先に死んだら
いつまでも彼岸向こうで
あなたを呼ぶね
 
 
 
三日間何も食べない
我が持つ
アプリで猫とじゃれ合う権利
 
 
 
「この世には神も仏もないのよ」

おばあちゃん今は何になったの?
 
 
 
誰なのかさえ忘れられた仏壇に
とりあえず
手を合わせる命日
 
 
 
父の背を追って育って
不器用で
神経質な女になれた
 
 
 
末っ子で肩を揉むのが下手なんだ
君はうまいね
長男だからか
 
 
 
5センチの溝に落ちては
泣いた日が
狼少女が生まれた記念日
 
 
 
10歳のマチビトキタルのおみくじを
今も忍ばせ
マチビトはキタ
 
 
 
学校を逃げ出す私を匿った
古道具屋に
信者はおらず
 
 
 
「寒いね」と擦るあなたの掌を
掴んでいたら
違う未来が
 
 
 
秋晴れに
誤り全部解き放ち鰯雲
明日(あす)台風が来る
 
 
 
正午前
目覚めテレビをつけてみる
ここはいいとものない世界か
 
 
 
四方から
責められ挟まれ萎縮した
「優」という字の「心」が嫌い
 
 
 
リビングに
紅い色紙敷き詰めて
本日の紅葉狩りの時間だ
 
 
 
「けいこちゃん」
孫の私をそう呼んだ
それはもういない叔母の名前だ
 
 
 
四本の指で構図を切り抜いて
くれぐれも君は
入れないように
 
 
 
工口(こうぐち)と
書いた時代もあったんだ
言論弾圧嘆く若者
 
 
 
歳ひとつ
学区がひとつ違ったら
初恋なんてしなかったのに
 
 
 
年始だけ昼酒解禁してた父
もうすきなだけ
のんでいいから
 
 
 
建前に鍵を二重に
窓も閉め
決して誰にも悟らせぬよう
 
 
 
切り刻み
余分な涙を拭き取って
とろ火でじっくり心を殺す
 
 
 
ベランダで
ひとり陽向を浴びつつも
やはり隣の空は青くて
 
 
 
際限のないこと
綿毛のたんぽぽで
好き嫌い好き嫌い好き好き
 
 
 
回送のバスを見習え
誰の背も
停まらぬ私で居続けてくれ
 
 
 
居心地の悪い顔して見切れてる
日常の隅の
非常口の人
 
 
 
「キミホント他人(ひと)の意見を聞かないね」
はにかむキミの
意見も聞かない
 
 
 
お祭りのルビーの指輪を
本物と信じてた
全部宝石だった
 
 
 
かみさまの高尚な趣味
散歩して
地鳴り起こして大波立てて
 
 
 
爆弾の赤と青の線
前にした気分
「どうして怒るか分かる?」
 
 
 
忙(せわ)しいは
心を亡くすというけれど
君を忘れても亡くなるんだよ
 
 
 
ああだから
死ねばよかったのにと言う。
死ねばよかったのにと二度言う。
 
 
 
いま春は
おとも立てずにおとずれて
おとも立てずに去ろうとしている
 
 
 
七十で初めて色をつけ浮かれ
除る(とる)こと知らず
荒れた母の爪


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