ふるさと




それならば 私は
 詩人にはなれない



 詩人というのは 必ず
 一度や二度は
 故郷を憶う詩を書くもので
 そして、それはきまって
 稲穂の光る田園だったり
 あるいは
 路地の入り組んだ下町だったりするのだが……



 それならば 私は
 詩人にはなれない



 私の育った町は
 小さな新興住宅街で
 校庭の公園の砂場以外は全て
 きれいなアスファルト固め
 稲刈りを直接見たこともなければ
 薄汚れた裏路地もなかった
 学校は築五年の鉄筋コンクリート四階建て
 新築全室フローリングの自宅には
 娘に甘い共働きの親がいた
 遊びといえばテレビゲーム
 未だにおはじきのルールは分からないままで



 さあ
 賢き大人達よ
 笑うならば笑え
 怒るならば怒れ
 嘆くならば嘆け
 土の匂いを知らなくとも
 風の色が分からなくとも
 今
 私はこんなにも
 強く、穏やかに生きている
 父を、母を、友を、
 愛する人を
 こんなにも慈しみ生きている



 あなた達が駄菓子屋の前で
 一円玉の使い道を迷ったように
 私達はコンビニの前で
 消費税の計算を確かめていた



 笑うならば笑え
 あのコンクリートの道と
 行儀よく並んだ家並が
 まぎれもなく私の故郷
 金の稲穂の地平線のみが
 詩人の故郷となり得るならば



 それならば 私は
 詩人にはならない


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