ひらり




彼女は、羽根だった



 変わり者ばかりの美術学校の中でも
 一際、目を引いた
 誰よりも奔放で
 気ままに笑っていた彼女は
 掴もうとしても指の間をすり抜けて行く
 白い羽根だった



 可愛い制服を目当てに
 ハンバーガーショップで
 アルバイトをする私達の中で
 誰よりも要領がよく器用な彼女は
 駅前で一日中、座っていた
 「似顔絵かきます。値段応相談」
 という汚れた厚紙を立てて



 彼氏の話ばかりしている私達の中で
 誰よりも整った顔をしていた彼女は
 隣の席に座った男子生徒の名前すら
 覚えようとはしなかった
 尋ねると、目をそらして
 「だって、男は馬鹿だから」
 と嘘っぽく笑った



 そんな彼女だったから、
 突然、姿を消したときも
 窓辺においていた羽根が
 飛んで行ったくらいにしか思わなかった
             思えなかった
 両親が捜索願を出してから、八日目
 見知らぬ町の消印の封書が三通、
 学校と、親と、私達に宛てて
 印鑑つきの退学願と
 「元気でやっている」
 というような手紙



 友人、と呼べば怒るのだろう
 そんなありきたりの分類に収まるほど
 大人しい羽根ではなかったから
 それでもいまだに待っていたりする
 魔法の羽根のように、思いがけず
  ひらり、
 あなたが舞い戻ってくることを
 
 

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